其処に住む、人魚の王の6人の娘達のうち、末の姫はある時上って言った海の上で、船の上にいる美しい人間の王子を目にする。
嵐に遭い難破した船から王子を救い出した人魚は王子に恋をする。
人魚姫は海の魔女の家を訪れ、声と引き換えに尻尾を人間の足に変える飲み薬を貰う。その時に、「もし王子が他の娘と結婚するような事になれば、姫は海の泡となって消えてしまう」と警告を受ける。更に人間の足だと歩く度にナイフで抉られるような痛みを感じる事になるとも・・・。王子と一緒に御殿で暮らせるようになった人魚姫であったが、声を失った人魚姫は王子を救った出来事を話す事が出来ず、王子は人魚姫が命の恩人である事に気付かない。
そのうちに事実は捻じ曲がり、王子は偶然浜を通りかかった娘が命の恩人と勘違いしてしまう。
やがて王子と娘との結婚が決まる。悲嘆に暮れる人魚姫の前に現れた姫の姉たちが、髪と引き換えに海の魔女に貰った短剣を差し出し、王子の流した血で人魚の姿に戻れる事を教える。愛する王子を殺す事の出来ない人魚姫は死を選び、海に身を投げて泡に姿を変え、空気の精となって天国へ昇っていった。
―Wikipediaより抜粋―
「いつ読んでも哀しいお話だよなぁ・・・これ」
「何だ珍しいな、君がこんな童話を読むなんて」
「そうですか?絵本とか私大好きですよ?」
私はそう冗談めかして言って、パタンと本を閉じた。
そして、ここにはどんな本でもあるんだなと改めて感心した。
「だけど、その話は悲劇だろ?」
「えぇ、私のところにはハッピーエンドもありましたけど、原作は悲劇ですね。官能的な解釈もほとんど残ってませんしね」
「ふ〜ん、それで今日は何をしに来たんだい?僕も仕事が忙しいのだけれど?」
「あぁ、本の整理ですか?だったら、手伝いますよ!」
「要するに、暇つぶしに来たのか。敦子は仕事が忙しいといっていたんだがなぁ」
「敦っちゃんの仕事と私の仕事は、忙しい時期がちょっと違うんですよ。あ、別に失業したとか言うわけじゃないですからね?」
「分かっているさ。そんなことになったら、敦子が真っ先に僕に言うはずだからね」
「あぁ、それもそうですね」
ひとしきり笑った後、中禅寺さんは使えるものは何でも使えといわんばかりに、本棚の整理を私に言いつけた。
それでも、私は暇よりは随分マシで、いろいろな本の題名を見たり、たまに中身をパラパラ見たりして、とても楽しかった。
今日は千鶴子さんがいるらしく、お茶菓子を貰ったりもしたし
「疲れただろう?」
「ちょっと。でも、楽しかったですよ!」
「君の働きを関口君も見習って欲しい所だね」
「中禅寺さん、本人に言ってください」
クスクスと笑いながら言うと、そりゃそうだと返されてしまった。
彼のことだから、本当に本人に言うつもりだろう
「そういえば、榎さんはどうしてる。最近来ていないから、話もしないが」
「元気ですよ?普通に」
「あの人の普通は普通じゃないだろ」
「じゃあ、馬鹿みたいに。ただし、やっぱりというかなんと言うか――外出はあまりしませんけどね」
私は毎日の様に外に出ないと気がすまないけれど、あの人は流石にそうはいかないらしい
「そりゃそうだろうなぁ。あの体質じゃ、大変だろうに」
「偶に落ち込んでますしね。その時ばかりは静かで嬉しいですけど」
「まぁ、彼は彼なりに色々考えているんだろうさ」
どこか遠くを見るような目で、中禅寺さんは言った
「中禅寺さんは――」
「ん?」
「中禅寺さんは大丈夫ですか?風邪とか――怪我とか」
「あぁ、ありがとう。僕は平気だよ。いつも大事をとって、何かある前に休むからね」
「1週間も休んだら、骨休みじゃなくなっちゃうじゃないですか」
笑いながら言うと、彼は――いいんだよ、本人がそう思っていればそうなんだから――と言い訳じみた事を堂々と言ってのけた
談笑していると、千鶴子さんがやってきた。
「あらあら、私抜きで楽しそうですこと」
「千鶴子さんがいないから、中禅寺さんとしか話せなかった私の心情を察してくださいよ」
「あら、口がお上手ね」
「おいおい、俺はいつでも悪者かい?」
「あら、私のことを放っておいていつも本と仲良しじゃありませんか」
クスクス笑いながら千鶴子さんはそういうと、雪絵さんと出かけることを告げて出て行ってしまった
「中禅寺さんも千鶴子さんもあんまり変わんないじゃないですか」
少し呆れながらそういうと、中禅寺さんは笑った
「そういわれればそうだね、千鶴子にも言っておこう」
「そんなに――笑うほどのことですか?」
あまりにも笑われて、ちょっと恥ずかしくなる
「だって・・・まぁいいや。それより、今日は助かったよ。もうこの辺で止めにしよう。疲れただろう?」
「―という事は、中禅寺さんが疲れたんですね?」
ちょっと拗ねてそう言って見ると、また彼は笑って――そうだよ――と一言だけ言った。
ちょっと納得いかなかったけれど、お茶もお茶菓子もご馳走になってしまったから、私は素直にやめることにする。
そういえば、千鶴子さんがいないんだから、夕飯はあるのだろうか?
「中禅寺さん、夕飯はどうするんですか?」
「千鶴子が作ってくれているはずだから大丈夫だよ」
「流石、出来た奥様!見習わないと!いや、私が見習う前に、うちの榎木津大探偵閣下に見習っていただきたい・・・」
「大探偵閣下って――普通、嫌味だって其処まで言わないだろうに――」
苦笑しながらそういう中禅寺さんに私は憮然として答える
「だって―――そう、一緒に住めば分かりますよ、一緒に住めば」
「絶対に御免だね」
数秒の間があったのはきっと想像していたのだろう。自分が、榎木津礼二郎と云う傍若無人な非常識を地で行く人間と住んでいる所を
「ですよねぇ。絶対が付きますよね、絶対が。」
「おや、噂をすれば」
「ぇ?」
中禅寺さんが言った途端に扉がガラリと開いた
ビックリして扉を見ると、長身の男が立っている。
噂をすればの"噂"の男だ
「どうしたんです、榎さん。こちらに来るとは珍しい」
「明かりがついていたからな。それよりも、茶!」
「いやいや、人の家にきて第一声がそれですか?」
「お茶くらい、自分で淹れなさい」
そう言って、中禅寺さんは急須を榎木津さんに差し出す
榎木津さんは、私の湯のみを取り上げて、中身を飲んだ
「ちょっと、それ私の――」
「コレはおいしいから、千鶴さんのだな」
「榎さん、いったい何をしに来たんだと聞いているんだよ」
中禅寺さんはあきれながら言った。言ったはいいのだが、それを全く効いていないのが困りものだ
「ちょっと、榎木津さん、聞いて――」
「はい」
「はい?」
言われて、手渡された湯飲みを見る
「それで、京極堂――」
「なんです」
ほう、後は私にやれと。お前は邪魔だから退けと・・・
私は何だかとてもムカついて、私と中禅寺さんの湯飲みをもって、勝手に母屋に行って洗って帰ってきた。
どうやら話は全て終わったらしく、榎木津さんは適当に本を物色していた
「来たな。ほら、本を読んでやるからこっちに来い!」
「私はどれだけ餓鬼なんですか、榎木津さん。本なんて、幹事を教えてくれれば、ほとんど読めます」
よむだけなら・・・ね
「せっかく並べたのに」
中禅寺さんがぼやいた
「だって、これお前がよく読んでいたやつの続きだろ?だから、読んで――」
「止めてくださいよ!私、自分で読みたいです!!」
榎木津さんの手から本を取ろうとしたら、ひょいと立ち上がって、冒頭をてきとう〜〜〜〜に読み始めた。
「ちょっ――嫌がらせですか!?ねぇ、私が読むんだから貸してくださいよ!!」
「榎さん、ゆき・・・いい加減にしなさい!」
「だって、中禅寺さん――」
「だってじゃない!!」
中禅寺さんに怒られて、私と榎木津さんは黙った。
「榎さん、もうゆきと一緒に帰ってくれよ。これ以上、この店を荒らされたくはないからね」
それだけ言うと、自分の目当てらしき本を持って母屋に戻る準備をする中禅寺さんに、私は慌てて自分の荷物を取った。
「あの・・・ありがとうございました」
「いや、それはこっちの台詞だよ。随分と仕事がはかどったからね。また、暇になったら来なさい」
「そう言っていただけると――明日は、お店やってます?」
「あぁ、そのつもりでいるが」
「じゃあ、また明日来ます。明日も暇な予定なんで」
私は彼が言い終わらないうちに、明日も来ることを告げた。
「そうかい。じゃあ、ちゃんと榎さんを持って帰ってくれよ」
「僕はモノじゃないぞ!神だッ!」
「はいはい、行きますよ。安和さんに怒られちゃう」
「別に和寅に怒られたって困るのは和寅だけだ」
「榎さんはそうでも、彼女は困るんだよ。大体、どうして怒っている本人が困るんだよ」
「確かに・・・なんで?」
「だってカズトラだろ?だったら、怒りつつも困るぞ、アイツは。変なところで器用なんだ――馬鹿だから」
榎木津さんはそう結んだ。
馬鹿だからって・・・
「まぁいいや。ほら、行きますよ。中禅寺さんも私たちが帰らないと、困りますから・・・絶対に」
「仕方がないな」
私たちはそれからいろいろな所に寄り道をしたけれど、無事に家に帰り着く事が出来た。
もちろん、家に帰ることには随分と遅くなっていたから、安和さんに怒られたけれど